行政書士事務所で優秀なスタッフを採用するためにできること
採用したい人物像を具体化する
ある程度、事務所経営が軌道にのってくると、ひとりでは仕事をこなしきれなくなります。
だから採用を考えます。最初から正社員採用をする場合もあるでしょうが、最初はアルバイト採用が多いと思います。
ただ、この採用は非常に難しいです。
私も、かなり採用で失敗してきました。お金も無駄にしてきました。ある人は、1日で退社し、ある人は仕事に対して無責任、ある人はいつまでたっても仕事を覚えません。
なぜ失敗ばかりするんだろう、なぜ良い人がとれないんだろうと、ずっと悩んで来ましたが、その原因が分かりました。
採用したい人物像を明確化していなかったんです。今まで、スタッフを補充しようと思ったら、求人を出して、応募してきた人のなかから、一番良さそうな人を採用していました。その方法だと、絶対失敗します。
大手企業ならそれでもよいかもしれません。でも所員が数人程度の行政書士事務所の場合、そもそもそれほど優秀な人は応募してきません。そのことに気づいたので、採用したい人物像をできる限り明確化してみました。全ての条件を満たす人はなかなかないと思うのですが、次回からは、それに近い人を採用したいと思います。
• 仕事に対してプロ意識を持っている人
• 事務所は実務の学校ではないということを理解している人
• 仕事を覚えるまでは、自宅で自己学習する意欲のある人
• 24歳~49歳まで
• 独立を考えていない
• ブラインドタッチができる
• 明るい
• 電話に出る時の対応がはきはきしている
• 掃除をきちんとやる
• 文章力がある
• 営業経験者
• 聞き上手
• おどおどしていない
• 目力がある
• 年長者や上司に対して敬意を持っている
• 検索能力がある
• 遅刻早退をしない
また、実在の人物をイメージするとより欲しい人物象が具体的になります。他の事務所にいるスタッフでも構いません。よく行くお店の店員さんでもよいです。こんな人がうちの事務所にいてくれたらいいだろうなという人を理想像とするのです。そして、面接に来てくれた人がその理想像にどれだけ近いのかを冷静に判断できます。
求人情報に、応募者のメリットになることを書く
例えば、休日休暇について。うちの事務所は、12月下旬、ゴールデンウィーク、8月が比較的暇になります。ですので、年末休暇10日、ゴールデンウィーク休暇も10日、8月に自由選択で5日間の休みをとれるようにしています。そしてそのことをかなり目立つように求人情報に載せています。
あと、1年以上勤務してくれたら、資格試験予備校の学費支援制度、語学学校学費支援制度も設けています。最大20万円支給しています。太っ腹だなと思われるかもしれませんが、からくりがあります。支給してすぐに辞められることを避けるため、分割して支給しているのです。毎月1万円ずつ。スタッフにとっては、毎月1万円の給与アップと同じことになりますし、雇う側としても、1年以上勤務してくれた方に対するボーナス替わりとして喜んで支給しています。
応募者が安心する社会保険と就業規則
新卒採用は、景気に左右されます。景気が良い時は、大企業が新卒採用を強化してくるので、良い人材の採用は難しくなります。中小企業によい人材は流れてこないからです。
応募者の数を増やすためには、社会保険に加入しておいたほうがよいです。ただ、将来独立を考えている人は、社保についてはあまり気にしない傾向にあります。社保完備よりも、この事務所で何を学べるかのほうを重視します。一方、独立を全く考えていない人は社保を非常に気にします。
それから、就業規則を必ず作成しておきましょう。就業規則がある会社は安心できます。本当は、社会保険労務士などに相談しながら自社に合ったものを作成すべきなのですが、そこまで余裕がない場合は、既存のテンプレートなどをカスタマイズして作成しても構いません。要は、就業規則がきちんとある事務所であることをアピールすることが重要です。
条件に合う人が応募してくれるまで待つ
近年、士業事務所の求人数が増えたこともあり、優秀な人は、大きな事務所に応募します。小さい事務所にも併願しますが、あくまで面接練習のためという場合も多いのです。必然的に、小さい事務所には、優秀な人の応募が少ないです。でも、じっくり待っていると、たまに優秀な人が応募してくれます。そのタイミングで内定を出すのです。
目安ですが、書類選考では、10人のうち、面接まで進むのは、2人くらいです。そして、5人以上面接して1人を採用する。こんな感じでよいと思います。優秀な人はそれくらいの割合でしかいないからです。
大手企業経験者に確認すること
士業事務所は中小企業です。事務所によっては、先生と事務員1人というところもあるでしょう。実務だけやっていればよいというわけではありません。パソコンが壊れたら、自分でコールセンターに電話して直す、電球が切れたら自分で買ってくる、トイレ掃除も自分でやる、トイレは男女共用、安くておいしい社員食堂があるわけではない、福利厚生施設もない、会社から携帯電話を支給されることも少ない、交通費など多少の経費のたてかえは発生する、他にもたくさんあります。
こうした職場環境について、事前に説明したほうがよい時もあります。士業事務所の仕事についてどんなイメージを持っているか聞いてみて、それが現実とかけ離れているようなら、入社してもすぐにやめる可能性があるからです。
市役所でのアルバイト経験は、士業事務所の仕事に役立つか?
全員がそうではないと思いますが、市役所のアルバイトは、単純作業が多く、決められた仕事を決められた手順に従ってこなしていくものです。例えば、住民票係にいた場合、一日、ひたすら住民票の発行、料金受領の仕事だけを行っていた可能性もあります。それでいて、住民票の除票の記載内容に関する質問に答えられない方もいます。もちろん戸籍や納税証明書に関する知識は全くありません。除票と言われたら除票を発行するという仕事だけしていた場合、そういうことも十分に考えられます。
市役所での経験があるからといって士業事務所の仕事ができるとは限りません。士業事務所の仕事は、応用力、柔軟対応が求められます。
新人が仕事をなかなか覚えない時どうすればよいか?
いろんな仕事を一度に任せない。
大切なことは、まず、1つの仕事に集中させる。そして、その仕事をマスターさせることです。
スポーツの世界に例えて説明します。
たとえば、サッカーが上手くなりたければ、ドリブル、トラップ、パス、シュート、フェイントなど、いろんな練習メニューを短時間ずつ毎日やるよりも、ひたすらドリブルだけを、毎日やったほうが、早く習得できます。ドリブルをある程度マスターしてから、次はトラップという感じで、ひとつずつマスターしていけば良いのです。
だから、いきなりあれもこれも教えないことです。スタッフの頭の中は、わけわからなくなります。そして、どの仕事もなかなか覚えてくれないという悪循環に陥るのです。
ただ、仕事量が少ない場合、実業務とは別に研修用業務を作るとよいです。最初は無駄に感じるかもしれませんが、いつまでたっても仕事を覚えてくれないよりは、よほどましです。
また、仕事の全体像を把握してほしいなら、業務に関する基本書を読ませてください。はじめてのビザ申請などの本を1冊読ませる。
そして、アンダーラインを引かせる。または、重要だと思う部分を中心に、レポートを書かせる。サマリーを書かせる。
一日中やると飽きるから、一日2時間くらいかな。
この作業を10時間くらいやってもらうと、その後の仕事の覚え方が全然違ってきます。
家で基本書を読んでねと言われても、なかなか読まないですからね。
士業事務所スタッフの早期退職を防ぐためにできること
事務所のスタッフが退職する時は、辛いものですね。やめてほしいと思っているスタッフほどなかなかやめないものですが、優秀なスタッフの早期退職を防ぐためにできることを書いていきたいと思います。
定期的な個別ミーティングの時間をつくる
達成できたこと、今後3ヶ月で達成したいこと。達成した時のイメージを抱かせる。
あと、不安に思っていることをヒアリングする。
もし何もなくても、上司とのコミュニケーションにはなる。
上司が自分のために時間をとってくれたという感謝の気持ちを持つようになる。
個別ミーティングでは、従業員の話をじっくり聞く。とにかく聞く。その場で反論しない。聞くことが大切。熱心に傾聴する。
年上の後輩、年下の先輩への接し方にルールを作る
お互いに敬意を持って接するのがベストな方法ですが、そうではない職場もあると思います。例えば、年上の後輩が敬語で話しているのに、年下の先輩は、命令口調で話している場合など。お互いが納得しているならそれでよいのですが、そうではない場合、それがストレスになります。特に、外国人の場合、国によっては、年長者に対しては例え部下であっても敬意をもって接することがルールである場合もあります。社内のコミュニケーションについては、原則として、お互いに敬語で話すなどのルールを決めておくのもよいでしょう。
顧客からの無理な注文につぶされないように
まだ慣れていないスタッフの場合、顧客からの無理な注文に対して上手に対応できず、背負いこんでしまう場合があります。往々にして、新規の顧客であることが多いです。しっかりと上司がフォローし、それはできないということを伝える。それでその顧客がなくなってもよい。社員をとるか、顧客をとるか考え、社員のほうが大切であれば、毅然とした態度で要求を断ることも大切です。
早期退職を防ぐキャリアパスを作る
スタッフが、毎日決まった仕事の繰り返しで変化がないと思っていたら、黄色信号です。
優秀なスタッフほど、スキルアップを望みます。
優秀なスタッフのために、助成金を活用してキャリアアップ制度をつくりましょう。
実務に直接関係する研修を受けるのもよいですし、経営やマーケティング、語学、人事、顧客心理など、スタッフが受けたい研修を受けさせるのもよいです。
あと、当社で3年(5年)がんばれば、こんなメリットがあるということを具体的に話すのです。
それから、会社のことを詳しく話してみるのもよいかもしれません。会社の沿革、主要取引先、官公庁との取引、銀行のランク、一般従業員には知らないことが多いですので、こうしたことを知ることで改めて自社の実力を発見するかもしれません。
ちなみに、中国語には「発展空間」という言葉があります。
ほとんどの中国人がこの言葉を知っており、また発展空間が大きい職場で働きたいと思っています。
発展空間とは、その職場において、自分の収入やスキルを向上させていくことができる余地のことです。多くの中国人には、働きやすさや福利厚生よりも、発展空間を重視して職場を選びます。ですから、もうこの職場で成長を望めないと感じたら、すぐにやめてしまいます。
私見ですが、事務所をこれ以上大きくするつもりがない、つまり現状維持方針なら、発展空間の意思が強い人は雇わないほうが、双方にとってよいのかもしれません。
行政書士事務所のインターン
近年、士業事務所の求人は増えてきましたが、インターン募集はまだまだ少ないのが現状です。私の事務所でも3名ほどインターン生を雇ったことがあるので、行政書士のインターンについて書いていきたいと思います。
士業事務所のインターン希望者というのは、仕事を早く覚えて、早く独立したいと考えている人がほとんどです。独立する意志がないのなら、アルバイトのほうが、給料は高くなるからです。
事務所側としては、インターン生に仕事を教え、彼らのミスをカバーし、インターンでもできる仕事を用意するなど、結構やることがたくさんあります。時間も取られます。そして、アルバイトよりは安い時給だといっても、それなりの時給と交通費が発生します。忙しい時に、あれやこれやと聞いてきます。ちょっとイライラする時もあります。
ですから、インターン希望者にお願いする仕事を最初から決めておきましょう。できるだけ上司に聞かずにできること、ミスしても影響が少ないこと。そして、インターン生にとってもメリットがある仕事です。例えば、下記です。
◆過去の案件のデータ化(スキャン)
単純作業ですが、インターン生にとっては、過去の案件を俯瞰で見ることができるので、実務のイメージがつかめます。
◆無料相談に同席し、相談議事録を作成してもらう
これは結構助かります。インターン生の文章力もチェックできます。
◆県内の役所に電話をかけまくって、郵送請求の運用ルールを確認する。
たとえば、市民税の納税証明書については、委任状請求できる役所とできない役所があります。また、郵送にかかる目安日数も役所によって異なります。こうしたことを、役所ごとにヒアリングし、エクセルにまとめてもらっています。固定電話を使うと高いので、かけ放題の携帯電話を貸し、そこからかけてもらっています。
◆外国語ができる人については、外国人のお客様用に、必要書類リストの翻訳
実は、翻訳してもあまり使い道がないこともあるのですが、作成しておいて損はないので。そして、教えなくてよいというメリットがあります。インターン生にとっては、どんな必要書類があるのか理解できるというメリットがあります。